今週は新しい映画を観れなかったので、私の大好きな映画のお話をさせてもらいま〜す!
よくお仕事などで『一番好きな映画は何ですか?』と聞かれることがあるんだけど、数あるお気に入りの作品の中で一番を選ぶのはすごく難しい。でも何度も何度も観ている映画というところで選ぶとナントいってもコレ! 『恋愛小説家』(1997年・米)。
もう何回観たかなぁ? 30回くらい…いやいやもっとだ。子供を保育園に送り、家事も用事も片付いてゆっくり出来た昼下がり、私は何故か無性にこの映画が観たくなる。自分でも『おいおい、またコレ? 何回観てんねん! まだ他に借りたまま観てないDVDがあるやろ!』と自分にツッコミを入れながらも、やっぱりコレをプレイヤーに挿入してしまう。何か身体が欲してるって感じ。そして観終わると、いつもホンワカ心が温かくなってて、優しい人なってる。私にとって心のビタミン剤みたいな映画なのです。
舞台はNY。タイトル通り、ある一人の恋愛小説家の男の恋のお話。ジャック・ニコルソン扮するメルビンは、仕事ではロマンチックなストーリーを紡ぎだしてるというのに、現実では恋人はおろか、友達もいない超自己チューな偏屈男。そんな心を閉ざした孤独なおっちゃんが、一匹の犬を預かったことと、一人のシングルマザーのウェイトレスに恋することで、少しづつ人間らしさを取り戻し、“いい人”になっていく…というお話。
とにかくこの映画、終始笑わせてくれる。お腹を抱えて大爆笑するようなテンションの高いギャグはないんだけれど、クスっと吹き出してしまう芸の細かな笑いが全編にちりばめられている。まず何が面白いってこのメルビンの変人ぶり。口を開けば強烈な毒舌でまわりを片っ端から唖然とさせてしまう。言われた人たちが皆、あまりの毒に怒るのを忘れてポカ〜ンとするところが可笑しくって…。実際、過去に私の知り合いにも一人こんなおっちゃんいました。私も何度かその毒を浴びた被害者の一人だったのですが、自分の予想をはるかに越える毒を吐かれた時って、『え?まさか!』って気持ちが邪魔して意味が脳に届くまで時間かかるんですよね。家に帰った頃にムカムカと腹が立ってきて、『ああ言い返してやればよかった!』『こう切り返せばよかった!』と後悔しては悔しくて眠れなくなったりして…(笑)。自分が言われたら嫌だけど、客観的に見てるとこれほど面白いとは…。
メルビンの変人ぶりはこれだけじゃない。異常なほどの潔癖性で朝から晩まで熱湯で手を洗っている。それも毎回新しい石けんをおろして(もったいないやろが〜!)。レストランにはMyフォーク、Myナイフを必ず持参する(自分んチで食べろっちゅうねん!)。おまけに過度な心配性でもあり、鍵の確認、電気の確認をガチャガチャ、パチパチと毎回決まった回数を繰り返さなきゃ気がすまない(これは私もやってしまうんですが…)。外を歩く時は縁起をかついでなのか、舗道の継ぎ目やタイルの継ぎ目を絶対に踏まない。だから行けない場所がいっぱいある(スケボーにでも乗ってなさい!)。
こんな凝り固まった偏屈オヤジの心を溶かしていくのが、えらい精神科のお医者様でなく、雄大な大自然でもなく、メルビンが大嫌いだったワンちゃんと、生活に疲れたシングルマザーのヒステリックなウエイトレスというところが面白いですよね。そしてもう一人、メルビンが差別して毛嫌いしていたゲイの画家。やっぱり逆療法っていいのかも…と思いました(笑)。
一見、みんなメルビンよりもマトモそうなんだけど、それぞれが人生に何かしら問題を抱えていて、実はメルビン以上に変人だったりする? 人と関わることを避けていたメルビンが、図らずも似合わない手助けをしてしまい、そこから少しずつ少しずつ氷が溶けていくように“いい人”変わっていくのを観てると、『人間っていいよな』『捨てたもんじゃないよな』と私自身も癒されてってしまうのです。
ウエイトレスのキャロル役のヘレン・ハントが本当にキュート! 決して美人じゃないけれど魅力的というのはこういう女性のことを言うんだろうな。あの鼻の上にシワを寄せてクシャっと笑う笑顔が大好きで、当時、どれだけ真似したことか! その頃、一緒にお仕事させてもらっていた小堺一機さんには『日本人の顔でやってもなぁ〜』と言われてしまいましたが、トホホ…。ゲイの画家役のグレッグ・ギニアも、その友達役のキューバ・グッディングJr.も、それから何て言う役者さんか知らないけど、キャロルのお母さん役のおばさんも、みんなみんなすっごいいい味出してる!
ところでこの映画、日本では『恋愛小説家』だけど、原題は『AS GOOD AS IT GETS』となっています。NOVA仕込みの私が直訳してみると、“それが成り得る限り良い”…いったいなんのこっちゃ? 日本語の分かる知人のネイティブに聞いてみたところ、『AS GOOD AS IT GETS』は“とても素晴らしい!”“最高!”という意味になるそうです。
ただし、脳天気な“サイコー!”ではなく、“これ以上の好転は望めない”“今が最高の状態”というちょっとネガティブなニュアンスの入った微妙な“最高”らしいのです。う〜ん、ムツカシイ…。
実際、劇中でメルビンがアポなしでカウンセラーの元を訪れ、診察を断られた時に、腹いせに待合室の患者たちに『What if as good as it gets!』と叫んでいた時の訳は、『希望なんか無駄だぞ!』と超ネガティブな訳になっていました。この時も言われた患者たちがポカ〜ンとしていたのが笑えましたが…。
それにしてもそんなネガティブな意味があるとしたら、ナンデこんなタイトルにしたんでしょう? 最初は理解できなかった私ですが、繰り返し観ているうちにだんだんとその微妙なニュアンスが分かってきたような気がします。この映画を観ていると、『誰しもみんな“最高の人生”を求めて現状に不満を持ってたり、不安になったりしているけれど、捉え方さえ変えれば“バラ色の人生”は案外すぐ近くにあるのかも…』ってことに気づかされます。若い時は何に対してもトコトンの頂点を求めるから、それによって苦しみあがいていてしまうけれど、大人になるにつれ、幸せの求め方も“いいさじ加減”をみつけられるようになる。きっとそれが『AS GOOD AS IT GETS』なんだろうなと思う。決して諦めではなく、まずは現状を受け入れて『うん!幸せ!』って思える気持ち。大事ですよね。
大好きなシーンを一つ。キャロルが毒舌でいつも雰囲気を壊してしまうメルビンに向かって『なんであなたは普通のボーイフレンドになれないの?!』とブチ切れるシーンで、二人の恋のゆくえを心配してドアの隙間から見守っていたキャロルのお母さんが、思わずしゃしゃり出て『最高の恋人なんてどこにもいないのよ!』と娘に諭すシーンです。実は私、このシーンを観て、今の旦那との結婚決めました。現在とても幸せにやっております。As good as it gets!(旦那が読まないことを祈る)。