ヒュー・グラント&ドリュー・バリモア。
ラブコメ映画には欠かせない二人が組んだ『ラブソングができるまで』(4月21日公開)を一足先に試写会で観てきました。この二人は意外にも初めての共演らしいです。ダメ男を演じさせたら天下一品のヒュー・グラントは今作品でもホント情けないダメ男っぷりでファンの期待を裏切らない。私もそのダメ男ファンの一人です。ヒュー・グラントってかなり男前なんだけど、遠い存在に感じさせない。あの八の字に垂れた眉と目で困った顔をするヒューは気の弱いコリー犬のようで、ヨシヨシと頭を撫でてあげたくなっちゃう。しっかり者の女性が母性本能くすぐられちゃうタイプですよね。普通こういう感情って年下に抱くことが多いのに、今年47才になるヒューがこのイメージを持ち続けているのは、ある意味凄い(?)
(ここからはネタばれの可能性ありなのでストーリーを知りたくない人は☆印まで飛ばして下さいませ)
ヒュー演じるアレックスはかつて(80年代)一世を風靡したポップスター。しかし、時の流れは残酷で、今やすっかり『あの人は今』の仲間入りでほとんど仕事がない。来る仕事といえば、遊園地などで行われる小さなイベントで歌う仕事ばかり。それもほとんどの通行人に素通りされ、立ち止まって観る客といえば80年代を懐かしむごく少数の“元ギャル”だけ…。懐かしいサウンドと振り付けのステージも寒ければ、二の腕の贅肉を震わせて異常なテンションで盛り上がる客席も寒〜いのだ。
そんな屈辱的な仕事さえ減る一方で、まさにジリ貧状態のアレックスにある日チャンスが訪れる。若者に絶大な人気を誇るカリスマ歌姫コーラから『新曲を作ってほしい』という依頼が舞い込むのだ。コレって日本で言えば、誰とは言えませんがかつてのGSグループの元スターのおじさんが浜崎あゆみに歌を提供するようなモンじゃない? 第一線に返り咲く大チャンス!
最初は尻込みするも、マネージャーに背中を押され10年ぶりに曲を書き始めるアレックス。しかし、曲作りの才能はすっかり錆び付いていてまったく進まない。そればかりか元々作詞の才能はゼロの彼は頭を抱えこんだまんま提出期限が迫る。
そんな時、たまたま彼のアパートの鉢植えに水やりに来ていたアルバイトのソフィー(ドリュー・バリモア)のつぶやいたフレーズが彼の心を直撃する。作家志望だったにも関わらず、失恋の痛手から書くことをいっさいヤメてしまっていたソフィーにアレックスは才能を確信する。彼女こそ救世主のパートナー?!
かくして負け犬二人のラブソング作りは始まった…。
☆いやいや、この作品…胸にズキンズキン痛かったです。実は何を隠そう、私自身がかつて(80年代)のアイドル歌手で、一昨年に『あの人は今』に出演したからです。観て下さった人はいますかねぇ…? 当時、キャニオンレコードの秘密兵器と言われ、大いに期待されたにも関わらず、シングル11枚もリリースしながら結局一曲もヒットせず、秘密兵器のまま終わってしまった私。情けなさで言えばアレックス以上なのです…トホホ。話がソレてしまった…。そんなワケで時代に取り残されたアレックスの感じる屈辱感が痛いほど分かる私としては、この二人の再生を賭けた曲作りを応援せずにはいられませんでしたよ、ハイ。
“生みの苦しみ”とはよく言うけど、出産も苦しいけりゃ、曲を生み出すのも苦しいものです。両方とも経験した私の感想では、曲作りや本作りの方が出産より数倍も苦しいです。(帝王切開だったからか…?!)。何もないところから何かを生み出す作業って、結局、自分の心の中と向き合う作業なんですよね。フタをしてる自分の臭い部分も、醜い部分も全部自虐的にえぐり出して直視しなきゃ人の心を打つ物は書けないと思う。そんな苦しみを味わって生んだ作品だからこそ、我が子同様、愛おしいものなのでしょうね。名曲『おふくろさん』を作った作詞家の川内康範さんがあそこまで意地になるのも分からんでもないです。ありゃ、また話が脱線してしまった…。
アレックスもソフィも歌姫コーラへの曲作りにもがきながら、お互い自分たちを立ち止まらせていた心の奥底の深い傷と向き合うことになる。怖くて一人では決して開けることの出来なかった心のひだを一枚一枚めくりながら…。LOVEに限らず、友情も、親子関係も、仕事仲間も、人は皆、足りない部分を補いあって関係を築いていくんだということを再確認させられ、ほのぼのした気持ちになりました。
見どころは何といっても回想場面で観られる80年代の音楽シーン。髪型、ファッション、サウンド。当時を知っている年代の人には何もかも懐かしくてキュンときちゃいます。そして初挑戦というヒュー・グラントの歌とダンス! 狙いなのか、はたまた本当に不器用なのか、見事にカッコ悪〜いダンスを披露してくれて大いに笑わせてくれます。ダサ過ぎる腰の振り方(彼いわく、トム・ジョーンズ風の腰の振り方らしい)は一見の価値あり。でも、最後の弾き語りは上手かったぁ! これまでの映画ではピアノを弾くシーンはあっても弾く真似をしていただけだったというヒューが、今回は実際に猛特訓してかなり弾けるようになったそうです。それ以来、すっかりハマって長い一日の仕事から帰るとピアノを前に弾き語りをして心を落ち着けているそうです。
ドリューのファッションがどれもすごく可愛かったところも女性には見どころですよ。
でも私が今作品で一番好きだったのは(試写会でも一番笑いが起きてたのは)、ソフィーのお姉さん役(ERやセックス・アンド・ザ・シティにも出演していたクリステン・ジョンストン)の親近感を感じるおばちゃんブリ! 『おばちゃんは大阪も東京もアメリカも世界共通やなぁ〜』と、遠いアメリカが近く感じられて嬉しくなっちゃいました。
ラブコメ好きには必見の作品です!
小林千絵